小手川ゆあ
集英社・ヤンジャンコミックス
2005年1月19日・発売
人間ドラマ・隣人愛・生と死 |
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最終巻の感想ということで、死ぬほど長くなってしまいました。各話感想なんて書くもんじゃないですね。すっげー疲れました。寿命が縮まる思いです。
<第13章 前編〜音〜>
コンクールで上位に入り、CDデビューを打診されるゆめ。自分の実力以外の部分を評価されてしまうことにショックを覚え、他の参加者には陰口を叩かれ・・・動き出してしまう周囲に戸惑いと動揺を隠せない。
そうしたゆめの悩みを聞いても、彼女に何もしてあげられないことにイラつく田嶋。自分は死刑囚なので、何にもなれない。彼女が苦しんでいるのに、自分は花を育てることしか出来ない。
「花なんか育てて何になるんだ―――」
ということで、最終巻はゆめちゃんと田嶋の話から始まります。今まで笑顔の絶えなかった彼女だけれど、この話はほとんどがうつむいた表情ばかりで可哀想になってきまちゃいました。
こんなシリアス一辺倒の話なのに、コンクール上位入賞者の名前が「1位:久保みずほ」「2位:村上まき」って!(笑)
ちょっと脱力。雑誌で読んだ時は気付きませんでした・・・・こんなところに小ネタを入れなくてもなぁ。一応補足しておくと、久保みずほは『おっとり捜査』のヒロイン、まきは『ARCANA』のヒロイン(村上さんと結婚したってことですね)。小手川漫画のヒロインは“ひらがな”の法則なのですよ!(ちなみに、みらいちゃんもまりあちゃんもあきちゃんもひらがなですね)
冒頭のCDデビューの話、「何より同じような障害を持つ人やそのご家族・・・世の中のいろんな人を、あなたの姿で励ますことができるんですよ」というプレッシャーが今回のテーマです。音楽ではなく、“姿”と言い切っちゃう辺りが何ともイヤな感じですね。
その話をゆめちゃん本人から聞いた田嶋は何も言ってあげられません。だって、彼は死刑囚。手をかけることも、抱きしめることも出来ない。田嶋に出来ることなんて、日々与えられた業務を過ごすことだけなんです。
そんな時、遠足の事件の時にゆめちゃんを助けた色Tシャツの少年が、何と!ゆめちゃんに告白しちゃいます!注意して読み返すと彼、4巻で「点字覚えたいかもー」なんて発言してました。モーションかけまくりですよ(笑)
そんな場面に遭遇してしまった田嶋は落ち込む訳です。自分が生きている意味すら疑ってしまう訳です。そんな時、椎名の替わりに責任者についた九能という男が、新しい囚人をテストする為に田嶋を刑務所に戻そうと命令してくるのだけれど―――
前編はこんな感じでつらい描写でいっぱいですが、後編へと繋がるアットホームな描写が一つ。落ち込んでいる田嶋を見かねた椎名は、田嶋の部屋の花が枯れていることに気付いて、新しい花をプレゼントします。「見ていてくれるってのが、またうれしいのよね―――」とゆめちゃんが言うように、ここらが後編に繋がってくる訳です。
あと、本筋にはさほど関係ないですが、みらいちゃんのお風呂来襲がありましたね。未遂に終わったのでイチャイチャ度は低めです。お姉ちゃんがムチムチしてきたのがショックだったみたいです。そうだよね、女のコはやっぱ貧乳でないと!
<第13章 後編〜夢〜>
「マ―――!!」
真崎さんが巨乳を振り乱して椎名宅を直撃!と言っても、椎名の隣の部屋は田嶋の部屋なので、実験の終了という話は田嶋にも筒抜けなんですよ。全く、真崎さんったら。
実験の終了を聞いた田嶋は、「その方が楽なんだ」と思い込もうとするのですが―――
朝、光とともにカーテンの向こうに花を見ます。椎名から貰った花。この一年半で、椎名から貰った言葉達・・・・・・・かつて自分で話した「見上げるとなんにもない。空がずっと続いてる。それが嬉しい。それだけでいい」という言葉を、朝の光の中に感じるのです。
「やるだけやるぞ。意味なんてなくてもいい」
田嶋は自分に出来ることを精一杯やることにしました。ゴミを片付け、床を掃除し、土をいじって花を育てる・・・・
実験の終了を聞いて落ち込んでいた椎名を笹塚さんが呼びに行きます。
椎名が学校に戻ると、彼の部下達が「新しい田嶋の働き先」を必死に探していました。彼らだって一年半、田嶋と一緒に歩んできたのです。田嶋をこのまま死なせたくなかったのです。笹塚さんもそう。「私もそうです」―――いつもクールに椎名をたしなめる笹塚さんが、一緒になって汗かいて頑張ってくれる。それが、凄く暖かくて、目頭が熱くなります。
田嶋が育てている花壇を訪れるゆめちゃん―――
花が咲いていることを「楽しいからな、育てるのは」と言い切った田嶋を見て、ゆめちゃんも何かを吹っ切れたように笑顔を見せてくれます。
「ううん。いっぱいもらってるよ、私は田嶋さんから―――
お話も聞いてもらってるし、いっぱいいっぱい励まされてるし、田嶋さんがここにいるからさみしくないし。
いろいろ悩んでたけど、なんか・・・少し見えてきた気がする。
ここのお花がいつ来ても元気なのってすごいことだよ? ありがとう」
号泣しました。2004年最も涙したセリフです。もし、世界の漫画が1コマを残して消えてしまうのでどれか1コマを選ばなきゃならないのだとしたら(どんなシチュエーションだ)、僕は間違いなくここのコマを選びます。
前編から続く「花なんか育てて何になるんだ―――」「オレはあの箱の中で一人で死ぬ方がふさわしいんだ」という田嶋の葛藤を集約して跳ね返し、彼の存在証明(ここにいて良いんだよ)を優しく包んでくれるのです。
僕が小手川ゆあ作品を好きな理由って、この「ここにいて良いんだよ」を具現化してテーマとして描いてくれるところなのだと思います。彼女の漫画には、確かにそうした暖かさを感じるのです。『おっとり捜査』終盤も、『ARCANA』も、もちろん『死刑囚042』も。
田嶋の「楽しいからな」という言葉を聞いたゆめちゃんは、「楽しんで弾いてないと、人を励ましたりできないです」とCDデビューを断り、色Tシャツの男も断ることに。色Tの彼、フラれた後もちゃんとゆめちゃんのことを考えていて好印象です。16〜7歳で、年単位で「待つよ」なんて言えるのは立派です。さすが、納豆屋!粘っこい!(台無しの一言)
「大人になる・・・・自分のペースで、ゆっくり。これでいいんだよね」
従来の小手川漫画なら、テーマ集約でこれで最終回なんですが・・・・・・残酷にも話は続く訳です。主人公は死刑囚。目を逸らしてはいけない現実がここから待っているのです。
<最終章 前編〜終〜>
雑誌では3週に渡って掲載された話を、一挙にまとめて1話扱いですね。
『死刑囚042』は前編と提示されたテーマを後編で集約することが多いので、コミックス派の人は戸惑うかもですね。雑誌では最初の2週分(ゆめちゃんの「田嶋さんに二度と会えなくなるの?」まで)が前編で、それ以降がテーマ集約する後編だってことです。
コメディ要素の薄い最終巻ですけど、この回の仮想パーティ(体育祭と文化祭)には癒されました。真崎さん、可愛いですねぇ・・・・・ハナメガネの刑務官さんがちょっとトキメいてますよ。ひょっとしたら伏線ですか!?(笑) コスプレはともかく、刑務の人達にモノ持たしちゃあかんでしょうに。マラカスとか参考書はまだ武器になるとしても(?)、シャンプーと洗面器は何に使えと言うんだ・・・・・・・・・片やん、恐るべし。
そんなこんなで2年目が終わり、新しい死刑囚のテストが始まることに。田嶋は老人施設に移りテストを継続させるため、仕事を新しい死刑囚053号に教えることに―――コイツが田嶋の理解不能な行動ばかりをしてイライラさせるんですよ。同じ死刑囚でも、田嶋と053号は理解し合えないということですね・・・・・・・・
一方、田嶋が学校を去ることを寂しく思うゆめちゃんは、あやのさんを訪ねるんですが―――あやのさんは「最初から住む世界が違う人だもの」と諦めモード。これこそが最終章のテーマです。
053号は田嶋にとっても、椎名にとっても、新しい研究チームにとっても“理解不能”な存在でした。同情の余地があった田嶋と違い、幼女殺しなんてしでかした053号は“理解不能”な怖いやつだと思われていたんですね。
椎名はふとしたことで思います。「それはあっちにとっても一緒なんじゃないのか。彼にとっては僕達全員が理解不能な存在なんじゃないか」と。
そうしたことを考えながら、田嶋とイチャついてる(笑)椎名でしたが―――自身のトラウマを整理しようとしていた時に、気付くんです。田嶋は最初の失踪の時に人を殺していたんだ―――と。3巻「〜鈴〜」での伏線消化です。
これまでは、
8歳〜14歳の時に誘拐→感情を失くして家族の下に→21歳の時に家族の借金返済のために暴力団の試合にて7人を殺害
だと思われていたんですが・・・・・この心理はおかしいって椎名はずっと考えていたんですよね。母親想いの彼が、どうして感情を失くして殺人を犯すまでになったのか。なので実際は―――
8歳〜14歳の時に誘拐。他の10人を殺害するしかなかった(実際に殺したのは誘拐犯一人だったのだけど)→感情を失くして家族の下に→21歳の時に家族の借金返済のために暴力団の試合にて7人を殺害
だったのです。この辺りは椎名の最後の演説にかかってきます。
一方のゆめちゃん。最後なのだからお別れをしたいのだけど、周囲の反発とみらいちゃんの過保護モード全開で田嶋に近づけないように。田嶋とゆめは住む世界の違う人間なのか―――
椎名は053号と接触。彼と同じ世界に住んでいることを証明させ―――演説へ。
最後まで迷いましたが、やはりここは原文を載せるしかそのメッセージを伝えることは出来ないと思い、ここに椎名の演説の後半部分を残したいと思います。関係者の皆々様、申し訳ございません。これこそが小手川漫画のテーマの全てだと思うからこそ、ここを載せないと話が成り立たないと思ったので抜粋させて頂きます。
「死刑判決を受けた者と、何十年かして社会に戻ってくる者。この両者は、別世界の人間でしょうか?
気づいてないだけで、彼らは確実に我々の社会の一部なんです。我々が別世界だと思いこんで過ごしているだけにすぎません。
彼らも同じ人間で、君達と同じように母親から産まれ、ようやく立ち上がり、小学校に通い、中学校に通い、少し乱暴な言い方かもしれませんが―――今、君達の隣に立っている
そういう人間の一人だったはずです。
何か他の人と感覚が違うと気づき傷ついたり、家庭の問題であったり、友人関係であったり、そういう小さな日常のほころびから・・・始まっていったのかもしれません。
だから、どうかあなたのまわりをもっと見てあげて下さい。さみしそうな人や、何か問題を抱えてるような人に―――少しだけやさしくしてあげて下さい。我々の社会の見えない隅に追いやらないであげて下さい。」
小手川ゆあは“悪”を作らない―――
刑事と犯罪者の対決モノだった『おっとり捜査』でも、主人公に対して「お前はこちら側の人間だ」と言う犯罪者が登場したり、その境界線の曖昧さを描き続けてきました。犯罪者が如何にして犯罪者に至ったのかを描き、犯罪者を“悪”として向こうの世界に追いやることは決してなかったのです。
それでは、犯罪者賛美なのか―――もちろんそんな訳はなく。「犯罪者とそうでないものの区別がない」のなら、せめて「今、横にいる人が道を踏み外さないように愛してあげよう」というのが小手川ゆあの描く世界なのです。『おっとり捜査』における久保みずほ、『死刑囚042』におけるゆめちゃんや椎名の意味とはそうして“愛してくれる”ポジションだったという訳です。このおかげで、秋葉は修羅の道に落ちずにすみ、田嶋は人の心を取り戻していったのです。
この演説を聴いたみらいちゃんはゆめちゃんの手を取り、田嶋の下へと連れて行きます。
「住む世界の違う人間」なんかではない。ゆめちゃんは田嶋に何度なく救われ、田嶋はゆめちゃんに何度も救われた。そうやってお互いに支えあうことが人間関係ならば、そこに距離なんてない筈です。
「ありがとな、ゆめ。元気でな」
去りゆく車中、椎名が外を見ると―――053号が自分を見ていた。
・・・・・・・・・こうして田嶋は学校を去っていったのです。
<最終章 後編〜眠〜>
最終回。学校を去った田嶋のその後・・・・・・
テーマは、この前の回までで描ききっているので、さほど挙げるポイントはないんですが・・・僕的に切なかったのは、このセリフですかねぇ。
「くそっ・・・ ・・・あいつら・・・ ・・・してやる・・・ 殺してやる・・・
・・・ちくしょう」
皮肉なことに、前の回で椎名自身が演説した「(殺人を起こしてしまった人は)今、君達の隣に立っている そういう人間の一人だったはずです。」を証明してしまった形に。椎名は周りに支えてくれる仲間がたくさんいて、田嶋自身にも支えられたことで道を踏み外さなかったですが、これはそう発言した本人にすら“殺意”が芽生えるてしまうってことなんだと思います。(だからこそ、今隣にいる人を支えてあげようというメッセージになってるのですが・・・・)
田嶋は刑が執行され―――その遺骨の元には、彼を慕って友人達が集う。
そして、彼らのその後―――ゆめちゃんは集英音大ではなく、教育学部の音楽科に。
あやのさんは旦那が単身赴任から戻ってきて、2人目の子どもと4人で暮らしている。あやのさんがどうしてこんな旦那を選んだのかは最後まで明らかにならなかったですね(笑)
みらいちゃんとまりあちゃんはかなり有名大学の法学部に入学。まりあちゃんが法曹界志望だということは描かれていたけど、みらいちゃんは―――まぁ、頭は元々良いって設定ですしねぇ。姉離れが進んだようで残念です。
真崎さんは刑務官さんと結婚―――!これが一番のビックリですよ。ブーケのシーンでイイ感じになってたけど、それまではほとんど絡みがなかったのに・・・ねぇ。4巻で「(彼女いないの)仕事のせいか?」とツッコまれていた彼が幸せになったのは良かったです。安心しましたー。
あとがきは物凄い短いんですけど(笑)、小手川先生がこの『死刑囚042』にかけてきた想いは作品を見れば分かるので満足です。ここまで“集大成”なる作品を描ききっちゃって漫画家として燃え尽きちゃわないか心配でしたが、どうやら読みきり1本と連載1本の準備を3月から始めるそうです。休み期間がサッカー選手並に短いですね・・・・・・大丈夫でしょうか。心身ともにリフレッシュした状態で、全く新しい小手川漫画を見せてもらえるように期待しております。
2年・・・・2年半くらいですかね?
『死刑囚042』という漫画とともに過ごせた時間はとても幸せでした。こうした作品を作り上げた小手川先生、スタッフ、編集部の方々に本当に感謝したいと思います。どうもお疲れ様でした。 |